「次の介護報酬改定はまだ1年以上先だから、本格的な準備はもう少し落ち着いてから」——そう考えている福祉現場の管理者は少なくないはずです。しかし、2027年度の改定は人材確保・生産性向上・LIFE関連加算の再編と、現場のオペレーションを根本から変える論点が並んでいます。社会保障審議会・介護給付費分科会では2025年から本格議論がスタートし、ICT化を前提とした人員配置の特例も検討段階に入りました。本記事では、2027年改定の方向性を踏まえ、いまから着手しておきたい福祉現場のDXを整理します。
介護現場を取り巻く構造的課題と2027年改定の論点

介護現場の最大の課題は、依然として人材不足です。厚労省の第9期介護保険事業計画によれば、2026年度に必要な介護職員は約240万人で、現状から約25万人不足する見込み。2040年度には約57万人不足にまで拡大すると推計されています。介護職の有効求人倍率は2024年時点で全国平均約4倍、全職種平均(約1.2倍)の3倍超で高止まりし、都市部では5倍を超える地域もあります。
この構造的な人材難に対して、2027年度の介護報酬改定では大きく3つの論点が浮上しています。
ひとつは、生産性向上を前提とした人員配置基準の柔軟化です。2024年度改定で新設された「生産性向上推進体制加算」を皮切りに、見守りセンサー・インカム・介護ソフトといったテクノロジーの導入実績がある事業所に対して、人員配置基準の特例緩和を検討する動きが進んでいます。介護付き有料老人ホームでは2024年度中に実証事業が走っており、特別養護老人ホーム等への横展開も次期改定を待たずに前倒しで進む可能性があります。
ふたつめは、LIFE関連加算の再構造化です。社保審の議論では、科学的介護推進体制加算を「ベース加算」と位置づけ、その他のLIFE関連加算を上乗せ型に組み替える二層構造案が示されています。さらに2026年5月にはLIFEシステム自体が国保中央会運用の新基盤へ移行し、データ提出のUI・セキュリティが刷新されました。「データを出して終わり」ではなく、フィードバックを現場のケア改善に活かす運用力が、加算算定の前提として問われます。
みっつめは、BCP(業務継続計画)の実効性です。2024年4月から策定が義務化され、2025年4月からは未策定の場合に基本報酬が減算される仕組みが本格運用に入りました。2027年改定では「策定済み」だけでなく、年1〜2回の研修・訓練の実施記録、災害・感染症発生時の通信手段や情報共有のデジタル化まで踏み込んだ評価が議論されています。
既存加算が示す「評価されるDX」の方向性

2027年改定の方向性を読み解くうえで、最も参考になるのは2024年度改定で新設された加算の要件です。なかでも「生産性向上推進体制加算」は、介護報酬がDXをどう評価しようとしているかを端的に示しています。
加算(Ⅱ)(月10単位)は、見守り機器・インカム等のICT機器・介護ソフトのうち1種類以上の導入で算定可能。加算(Ⅰ)(月100単位)は3種類すべての導入が要件で、業務改善委員会の設置や効果測定までセットで求められます。つまり「テクノロジーを買って入れる」だけでは足りず、現場業務の棚卸しと改善PDCAの仕組み化が前提になっています。
ここから読み取れるのは、評価されるDXが大きく次の領域に集約されていることです。
- 記録のデジタル化:紙とExcelで分散していたケア記録・ヒヤリハット・申し送りをタブレット化し、LIFEへのデータ提出につなげる
- 見守り・センシング:離床センサー・コール記録の可視化で、夜勤負担を軽減しつつヒヤリハットを未然に防ぐ
- コミュニケーション:インカム・チャットツールで職員間の連絡を即時化し、移動時間と聞き直しを減らす
- バックオフィスの省人化:請求業務、加算管理、勤怠、備品・消耗品の発注など、ケア外業務の自動化
特に4つめのバックオフィス領域は、ケアそのものではないものの、施設長や生活相談員の時間を最も奪っている領域です。介護用品・衛生消耗品・厨房食材といった発注業務は、いまだに電話・FAX・紙伝票が主流で、月末の伝票突合や請求書照合に半日以上かかる施設も珍しくありません。
ケア記録のDXは話題になりやすい一方、現場の隠れた事務負担はバックオフィス側にある——これは多くの施設管理者が口を揃えて指摘するところです。
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2027年改定までに着手すべき4つのステップ

2027年改定までは1年強。今から準備を始める施設に向けて、着手順序を4つのステップに整理します。
1. 業務棚卸しと「ケア外業務」の可視化
まずはケア業務とケア外業務の時間配分を1〜2週間ログに取ります。記録、申し送り、発注、シフト調整、請求業務、研修——どこに時間を使っているかを数字で示すと、DX投資の優先順位が自然に見えてきます。生産性向上推進体制加算の取得を狙う場合、業務改善委員会での議論材料としても必須です。
2. 加算要件と現状のギャップ確認
科学的介護推進体制加算、生産性向上推進体制加算、認知症加算、口腔・栄養関連加算など、自施設で算定可能な加算と現状運用のギャップを洗い出します。LIFE提出データの欠損が多い項目、研修記録が紙で管理されている項目を特定しておくと、ツール選定の軸がぶれません。
3. 小さく始めて効果を測る
いきなり全領域を一斉にデジタル化しようとすると、現場の負荷で頓挫します。「夜勤の見守りセンサーから」「備品発注のタブレット化から」など、効果が測りやすく職員数の少ない領域から始め、3〜6か月で定量効果(残業時間、ヒヤリハット件数、発注ミス件数)を測るのが現実的です。
4. 補助金とBCPを組み合わせる
ICT導入支援事業、IT導入補助金、地域医療介護総合確保基金など、福祉領域で使える補助金は複数あります。さらにBCPの研修・訓練、安否確認システム、停電・断水時の代替記録手段といった項目を、DXの計画と一緒に設計しておくと、改定後の算定要件にもスムーズに乗れます。
これら4ステップは、改定確定後に慌てて整えるものではなく、半年〜1年かけて積み上げるべき下地です。2027年4月の改定発表後では、設備調達・職員研修・運用定着のリードタイムが間に合いません。
まとめ
2027年介護報酬改定は、人材難という構造的制約のもと、生産性向上・LIFE再編・BCP実効性の3軸でDXが本格的に評価されるフェーズに入ります。「テクノロジーを入れる」段階から「テクノロジーを使って業務を変える」段階への移行が問われ、評価対象もケア記録だけでなくバックオフィス全体に広がります。改定発表を待つのではなく、業務棚卸し・小さく始める・補助金活用を組み合わせて、いまから下地を整えておくことが、加算取得と現場負担軽減の両立への最短ルートです。
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